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あの頃 (高村光太郎) [詩]

ただ何気なく、高村光太郎さんの詩集 『智恵子抄』を書棚から久しぶりに手にとりました。

光太郎さんは、明治から昭和にかけて活躍された画家・彫刻家であり詩人でもあります。
「こうたろう」と言う読み方はペンネーだそうで、本名は、「みつたろう」と読むのだそうです。
光太郎さんのお父様は有名な彫刻師・高村光雲さんで、上野公園の西郷隆盛像を作られた方です。

智恵子さんは福島の造り酒屋の長女として生れ、東京の大学を出られてからも東京に留まり油絵の勉強をされていました。 そして25歳の時に光太郎さんと知り合って28歳でご結婚。
しかし結婚生活は金銭的に苦しく、実家の破産と言うこともあって窮乏し、45歳の時に統合失調症を発病して翌年には自殺未遂・・・。 そして52歳の時、肺結核のため死去されました。

『智恵子抄』は、光太郎さんが智恵子さんへの30年間の想いを綴った詩集で、詩29篇、短歌6首、散文3篇が収録されています。

その中から一つ、私の一番好きな、『あの頃』 と言う詞を記しておきましょう。 (現代語訳済)

           あ の 頃

      人を信じることは人を救う。
      かなり不良性のあったわたくしを
      智恵子は頭から信じてかかった。
      いきなり内懐(うちふところ)に飛び込まれて
      わたくしは自分の不良性を失った。
      わたくし自身も知らない何ものかが
      こんな自分の中になることを知らされて
      わたくしはたじろいた。
      少しめんくらって立ちなおり、
      智恵子のまじめ純粋な
      息をもつかない肉薄に
      或日はっと気がついた。
      わたくしの眼から珍しい涙がながれ、
      わたくしはあらためて智恵子に向った。
      智恵子はにこやかにわたくしを迎へ、
      その清浄な甘い香りでわたくしを包んだ。
      わたくしはその甘美に酔って一切を忘れた。
      わたくしの猛獣性をさへ物ともしない
      この天の族なる一女性の不可思議力に
      無頼のわたくしは初めて自己の位置を知った。   (S24.10)

私はこの詩を読んでいて、とても広く大きな世界を感じました。 南無阿弥陀仏

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