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2009夏 一人旅・回想録 30 ( むつバスターミナル → 下風呂 ) [Travel]

時刻は17時をまわり、バスの車窓から差し込む西日がきつくなってきた。
私は海を眺めるために東側のシートに座ったが、車内は帰宅時間と重なっていたため混雑していた。
バスはむつの町を抜け、国道279号線を北へと向かう。 
車窓から眺める風景の至るところで咲き誇る紫陽花の花がとてもきれいで、同時に咲いているあわだち草の花とのミスマッチな季節感を不思議なものとして感じた。
私の中では、紫陽花は6月、あわだち草は9月という認識があり、そんな自分の知識が常識となって、今、目の前にある現実ですら、「信じられない」と言ってみたり、「不思議」という一言で処理してしまったり、まったく、自分の智恵が唯一なのか?!と自身に問うてゲンコツで頭を小突くが、これで動じる私ではない…。

途中、大畑バスターミナルで大半の乗客が降りたため車内の客は5人ほどになって快適! と言いたいところだが、そうはいかなかった。
通路を挟んで斜め前の座席に座っている青年がシートの背もたれにしがみ付くような姿勢を保ったまま、ジーッと私の顔を見ている。
それが気になって、私は彼に、「何か?」と尋ねるが、彼は何も答えず、ただ無言のままジーッと私を見つめるままである。
「どうしよう・・・・・」と心の中で呟く。 
彼とは普通の会話が成り立たないのではないか…、と思っている私が、私の行動と言動を制限している。
何故ならば、彼は知的障害を持っているから・・・・・・
彼の二つ後ろのシート、通路を挟んで私の隣りに座る彼の知人である女性も同様に障害を持っている。
おそらく学校か職場からの帰宅途中なのだろう…。 彼女の方はひたすらにしゃべり続けているが、彼の方は無言のままで、ペットボトルのジュースをチュパチュパと音とを立てすすり飲む以外は静かなものであるが、視線は私に向けられたままなので、私はそれが気になって仕方がない…。
「どうしよう…、 どう対処すればよいのだろう…、 何か話しをした方のがよいのか、それともこのまま無視してこれを耐えるしかないのか…」

バスは海沿いの道を進む。 時折バスの右手に、そして正面に海の景色が広がる。
そんな美しい風景を目にしながら、表面上は平静さを装い、しかし心の中ではその青年を虚仮にしつつ苛立ちを募らせる私って・・・  見たくない自分の姿を見せられて私は目を背けた・・・・・
自分の外にきれいなものを見つけようと、私は感動を探しながら車窓からの景色に目をやる…
もうすぐ日暮れだ…  宿に着いたら、すぐに夕日を見に行こう…

むつから1時間少々で下風呂のバス停に着いた。
バスから降りる際、私が降車ボタンを押そうと手を伸ばすと、これを見ていた彼がすかさず私よりも先にボタンを押してくれたのだが、私にしてみたら有り難くもなんともない…、最後まで疎ましいヤツだと罵ることしか出来なかった…。
そして、自分の他人に対する判断基準の冷酷さを自己嫌悪しながら、私は宿への道を急いだ。

下風呂港の夕焼け宿に着くと、私は Check In も済まさぬうちに女将さんに荷物を預け、「夕日を探しに行って来る!」と言い捨てて宿を飛び出した。
もう既に西に聳える山陰に太陽は沈んでしまっているけれど、海の方まで出れば…、 あの山の脇を北に抜ければ 夕日が見られるんじゃないか… と、 淡い期待を胸に走り出したが、どこまで走っても夕日は見られず、体力が尽きた時には青く染まった西の空に白い月が浮んでいた・・・・・・
下風呂から見た月
そんなものなんだ・・・・・・
いくら私が頑張ったところで、時間は決して待ってはくれない・・・・・ 
夜は、必ず訪れるものなのだから・・・・・・
港で一人佇みながら、また涙がこぼれ落ちた・・・・・・

ひぐらしの声を聞きながら、月明かりの道を宿へと戻る…。 
その途中で出合った花々に話しかけながら・・・・・・
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