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2009夏 一人旅・回想録 27 ( 霊場恐山 6 ) [Travel]

二人連れのライダーが去って一人きりになると、とても静かに感じた。
カラスの鳴き声と、鶯の声がする…  先ほどの法則で言えば、カラスは地獄の鳥で、鶯は極楽の鳥だわね…、なんて思いながら一人笑い。
風の音がする・・・・・  そのまま耳を澄ましていたら、何か言葉のように聞けそうな気がしたが、後方より一組のカップルがここの日陰を求めてやって来たため気が削がれてしまった。
この喫煙所の斜め横に‘浄土ヶ浜’と書かれた看板と賽銭箱が設置されていて、これを見て彼女が言った、 「ここ‘浄土ヶ浜’って言うんだ~ぁ、 ‘天国の湖’なんだね~」 って…。
一瞬、ズベッ… となったが…、ま~ぁ世間ではそれが一般常識なのだろう…。

彼らが立ち去った後、しばらくは誰も来なかった。 時刻は14時、今日はLaunchを食べ損ねた。
遠く、宇曽利湖の波打ち際を、先ほど賽の河原で一人佇んでいた男性が、ゆっくりと歩いて行くのが見えた。 そして、彼の姿が見えなくなると、本当に一人ぼっちになった。 

「なまんだぶつ…」 と、口にしてみる…。  「なんまんだ仏…、 南無阿弥陀仏…」

霊場恐山         今、私(我)がここにおる  
         南無阿弥陀仏もここにおる
         「ここ」と言うのは私(我)なり
         「私」と言うのはオレがの「我」
         上辺にあらず、 思案にあらず、

         私(我)があるから、如来様もここにおる
         私(我)がなければ、如来様の苦労もない
         私は我(ワタシ)、 我(ワタシ)は私
         だからこその‘南無阿弥陀仏’
         それが証拠に、口から飛び出す‘南無阿弥陀仏’

こんな言葉がノートに記入されていた。 自分で書いたはずなんだけど、あまり覚えていない。
ただ、お念仏と共に、また涙が溢れてきて・・・・・  しばらくの間、泣いていた事だけ覚えている。

「私は、何故ここに来たのだろう・・・・・」  また同じ疑問が頭の中で繰り返される…。

恐山 宇曽利   誰かが私を地獄へと突き堕とすんじゃない…。 
   誰かが造った地獄へ堕ちて行くわけでもない…。
   私が自分で選んだ道が地獄行き。 
   私が自分で造った世界が私の行き先。

私は、自分に会いに来たんだ・・・・・
こんな遠くまで来なければわからなかった・・・・・
なぜ 恐山なのか…、 
なぜ 私は一人ここにいるのか…、  なぜ 今、この瞬間があるのか…、
メモする手が止まった・・・・・・  でも、溢れ出てくるものは止まらない・・・・・・

私は、私でしかないんだ・・・・・・
こんな私に、いつも寄り添って一緒にいてくださる…、 
‘南無阿弥陀仏’となって一緒にいてくださる…
泣きながら笑えた…   大泣きしながら、ぐしゃぐしゃに笑えた…

私、人間に生まれたんだ…
私、今、生きている…  おかげさまの命が、ここにある・・・・・・

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2009夏 一人旅・回想録 26 ( 霊場恐山 5 ) [Travel]

先ほどの恐怖感は、いったい何だったのだろう・・・・・
開かれた見通しの良い場所まで来て、また、他の人の姿を見つけただけで、得体の知れない化け物から逃げ延びたという安堵感に変わってゆく心…。
しかし、気持ちが落ち着いてくると今度はこの場所にも飽きてきて、心の中で拠り所とした人たちさえも疎ましく思う心が沸き立つ…、身勝手極まりのない私・・・・・・

宇曽利山湖 と 極楽ヶ浜

八角円堂の前を通って、無色透明な血の池地獄を横目に、宇曽利湖(うそりこ)畔の賽の河原へと出た。
賽の河原には、積み石… と言うよりも、ただ小石が無造作に寄り集まっているだけの石の小山のようなものが数えられる程度あるだけで、何のことはないただの砂浜だ。
しかし、この山中にあってこの白砂の浜という風景は、他所ではなかなかお目にかかれるものではないだろう。 それに、宇曽利湖の水の透明度はすこぶる良い。
多分ここを訪れた人たちは、賽の河原よりも、まず宇曽利湖の美しさに心奪われ、「これはこの世のことならず、死出の山路の裾野なる、賽の河原の物語 ・・・」なんていう悲話に心を寄せる人などほとんどいないであろう…。
案の定、後方よりやってきたバスツアーの客の誰一人としてこちらに目を向ける者などいない…、
誰もが一直線に美しい極楽ヶ浜の方へと楽しそうに駆け寄って行く…。

しかし、たった一人だけ賽の河原にて宇曽利湖の水面を見つめながら佇んでいる人があった。
先ほど奥の院不動明王の前ですれ違った一人旅の男性である。
最初に彼とすれ違った奥の院では、「こんにちは!」と挨拶を交わし、次に会った八角堂の前では、「暑いですね~!」と一言だけ交わしたが、今の彼は、とても声をかけれるような雰囲気ではなかった。
その横顔は、とても大きな悲しみに耐えているかのように見えた…。

宇曽利湖の波打ち際に座り込んで湖中の湧き水をしばらく間ジーッと眺めながら、腑に落ちなかった疑問の答えを見つけたように思った。
なぜ、火山岩がゴロゴロしてガスの湧き上がる場所を地獄といい、この湖や白浜を極楽と名づくのか…、
要は、醜く、オドオドしく、苦しく、辛いものは、全て‘地獄’と呼称し、美しく、ホッと出来て、楽しく、ラクチンなものは、全て‘極楽’と呼称される。  な~んだ、単~純!  
で…、馬っ鹿みたい!!
私は立ち上がって極楽ヶ浜の方へとゆっくり歩き出した。

先ほどとは別の団体客がやって来て、また自分勝手に騒いでいる。
ここは人々が口をそろえて言っているような、「この世とあの世の境目で死者の想いが充満していて…、且つ、亡き人ととの語らいの場…」だなんて、私は微塵も感じない・・・・・
ここにあるのは美しき地球の自然と、この世の人々の嘘と穢き欲の思い・・・ それだけである・・・・・・

それにしても日差しがキツイ…  日陰になる場所も、ベンチもない…  既に腕や胸元は日焼けで赤くなり熱を帯びている。  天気予報では今日の天気は曇りだと言っていたのに…、晴れ女の頭上には燦々と夏の太陽が輝いている…。
見渡すと極楽ヶ浜の中ほどに一箇所だけ小さな屋根を見つけたのでそちらへ引き寄せられるように歩いて行くと、そこは唯一の喫煙場所であった。
吸殻入れから放たれる悪臭よりも、とにかく日陰に入りたかったし、既に2時間近くふらふらと歩き続けていたので涼める場所で座りたかった。
極楽ヶ浜より見た宇曽利山湖先客はバイクで旅する二人連れの男性のみ。 遠慮なく隣りに座らせてもらった。
でも、ただボ~ッとしているのも居心地が悪かったので再びノートにむかってアレコレと記入をしていると若い方の男性が、「俳句とか作ってるんですか?」と声をかけてきたので、「いえ、日記みたいなものをメモしてだけです」と答える。
するともう一人の男性が、「湖を見てくる…」と言い残し、一人、宇曽利湖の方へと歩いて行った。
二人きりになったけど、全然会話は弾まない…。 それでもお互い気まずくなることなく、ただボ~ッと出来たのは、多分、それだけこの風景が心安らかな感覚をもたらしてくれたからだろう。

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2009夏 一人旅・回想録 25 ( 霊場恐山 4 ) [Travel]

霊場恐山には、私レベルの奇妙な光景をいくつか目にした。

恐山の結び草[三日月]一つは、積み石。 
どうして石をきれいに積み上げることが、水子や幼子の浄土往生の手立てになるのだろう…? と、とてもひっかかった・・・
[三日月]一つは、結い草。
霊場に生えている草が二方から堅結びにしてあるのだが、これは、積み岩の塔を崩し子供を苛めに来る鬼の足を引っ掛けて転ばすためなのだとか…。
しかし、こんな悪戯にひっかかってスッ転ぶ鬼ならば、可愛いんちゃうの?とさえ思ってしまう・・・
[三日月]一つは、記名された小石
霊場の随所に、直系10cmほどの小石や同等の大きさの小さな地蔵が無造作に山積みにされているのだが、これに個人名と日付の記されているものがいくつかあった。
中にはダイレクトに願い事などを書いてあるものもあるが…、さてはて、いったい何のため?
恐山 賽銭[三日月]一つは、お賽銭。
とにかく、賽銭箱の数は半端なく多い。 犬も歩けば賽銭箱に当たる!と言えるほど多い。
それとは別に霊場には、地獄名の付けられた岩や、火山性ガス(亜硫酸ガス)の小さな噴出口が所々にあるのだが、必ずと言っていいほど賽銭箱とは別の場所に小銭が捧げられてある。
先ほどの話しじゃないが、「どうぞ、地獄とご縁で結ばれますよ~に!」ってつもりではないだろうに…、なぜお賽銭をあげるのか…、私には理解できない。
[三日月]一つは、カラス。
カラスがいるから不気味というわけではないが…、
カラスと言えば食料豊富な都会の鳥だと思っていたのだが、ここ霊場には、観光客の数よりもカラスの数の方がはるかに多い。 
いくらカラスが雑食だといっても、亜硫酸ガスの立ちこめるこんな何にもなさそうな場所に、これだけの群れが生息しているというのは奇妙な気がした。

[満月]しかし、何よりも奇妙だったのは、私自身かもしれない・・・・・・

慈覚大師堂の脇を抜けて、大平和観音像のある高台から慈覚大師坐禅石の方へと下りて行く。
その私の後ろを何かがついて来る・・・・・・
私の背後に…、 私の後方足元に…、 誰か、何かはわらないがついて来る・・・・・・
私の背後で小路の石が転げ落ちる音がしてフッと振り返るが、そこには誰もいない…。
得体の知れない何かが私をつけまわす。
私の背後で草の茂みをかき分けるような音がしてフッと振り返るが、やはり誰もいない…。 
しかし、確かに何かが私の背後でうごめいている。
正体のわからないものに対する恐怖。 
一人っきりでいることに対する恐怖。
畏怖する気持ちを紛らわそうとしても、私の耳も感覚も、背後の何かを捉えて放そうとしない。
恐い、 恐い、 恐い !
思わず人を探す。 誰でもいいから正体の知れたイキモノの存在を探す。
そして前方に一組の観光客の姿を見つけて私は駆け出した。

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2009夏 一人旅・回想録 24 ( 霊場恐山 3 ) [Travel]

丘から下りて順路通りに岩石だらけの小路をポチポチと歩いて行く。
そして、大王石、無間地獄、みたま石、などと名称を付けられた岩に対して一々愚痴をこぼしながら、また、所々で地中より吹き上げる火山ガスを興味深く観察をしつつ、「ここのどこが地獄の風景と言えるのか・・・」と、思わず声に出して言った後、大きなため息をついた。

音といえばカラスの鳴く声と、耳を澄ませば火山ガスによって吹き上がる蒸気の音がかすかに聞こえるだけで、後は観光客らの話し声がやたらと耳に入ってくる。

 「 カラスがいるってことは、やっぱりここは不吉な場所なのよ! 」
 「 ここに来て、やっとおばあちゃんと会えた気がする、 あぁ、来てよかった・・・ 」
 「 写真なんか撮っちゃダメよ! 心霊写真になっちゃうから! 」
 「 なんだか気分が悪い…、悪霊にまとわり憑かれている感じ・・・ 」
 「 ここの石を持ち帰ると祟られるそうから、触るのもやめとこッ! 」
 「 ホントに地獄の風景みたいだわね~、クワバラ クワバラ・・・ 」
 「 きっとあの子(私)も、死んだ両親とか恋人とかに会いに来たんじゃない?! 」

これが、極々普通の世間の認識なのだろう・・・  何の矛盾も持つ必要のない当たり前の会話なのだろう・・・  
そんな世間の常識に…、 そんな世間一般の人々のお話しに…、 私は何をこんなにイラついて、何にこんなにも腹を立てているのだろうか・・・・・  わからないけどすごくムカムカする・・・・・

お天気は快晴! 岩の白さと、山の緑と、湖の青と ・・・  恐山はとても美しい所である。
この地に対して、恐ろしさなど微塵も感じられない。
だって、私の方がよっっっぽど恐ろしいよ~・・・  他者を嘲り、他者に苛立ち、他者を謗って、他者を疎う・・・・・
そんな自分の思いを抑えきれない・・・! そんな自分の心を誤魔化しきれない・・・!
「わたしは・・・・・  
わたしは、こんな心を持ったまま、死んで行かなくっちゃいけないの・・・?
イヤだ、 死にたくない!  わたし、死にたくない!!」
そう思ったら息が苦しくなってきて…  私は、自分の胸元を鷲づかみに押さえながらいつの間にかその場に跪きしゃがみこんでいた・・・。

一人ぼっちだと思った・・・・・
私は、しゃがみこんだまま、一人 泣いた・・・・・・
日の光を遮るものの何もない山の上で、私は一人ぼっちで・・・
悲しいのか…、恐いのか…、悔しいのか…、怒っているか…、 何もわからないまま、ただ泣いた・・・・・・

以前 Yuさんが、「死んだ者より、生きている者の方がよっぽど恐ろしい。 自分というヤツが一番恐ろしい…」 と おっしゃったことを思い出した。
「イ・チ・バ・ン、 オ・ソ・ロ・シ・イ・ノ・ハ、 コ・ノ、 ワ・タ・シ ・・・・・」
私は、それを認めたくないんだ・・・・・   でも、私は知っちゃったんだ・・・・・・
私がこれを、認めなくとも…、受け入れなくても…、その事実は存在するんだ・・・・・・

そして、それを教えてくれたのは誰?! 
世間を馬鹿に出来るだけの知恵も、こんな浅はかで愚痴な自分というものを見ることの出来る目も、惨めで孤独な私というものを拒否する心を感じることが出来たのも、誰のおかげなの?!

自問する心には何も答えぬまま、私は、汗とも涙ともわからないグチャグチャになった顔をハンカチで覆って立ち上がり、また一人歩き出した。
霊場恐山の地蔵とカラス

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