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2009夏 一人旅・回想録 2 ( one’s belongings ) [Travel]

行き先はその時の思いつきで、本州最北の下北半島にある恐山に決定し、夫の許可も難なく下りた。
なぜ、恐山なのか?   そんなのわからない・・・・・。  
自分でも予測していなかった思いつきだったが、旅に対する不安とか、行き先に対する違和感といったものは感じられなかった。
ただ、そこから先のスケジュールは何も立てられなかったから、夫には、「北へ行く」と言って家を出た。

7月28日早朝、夫に駅まで車で送ってもらい、夫から 「一日一度は現在地の連絡を入れてね! 二日間連絡がなかったら三日目には捜索願いを出すから!」と、冗談交じりに見送ってもらう。
そして、先を急ぐ旅ではないし、安上がりな旅をしようと青春18きっぷを購入して早朝の列車に乗り込んだ。

手荷物は小型のスーツケースに三日分の着替えとノートパソコン、そして一枚の写真と 一通の手紙。

写真は、選んだ一枚で、恐山の山中に埋めてこようか…、それとも北の海峡に破り捨てようか…、そんな根暗なことを楽しく考えながらバッグにしのばせた。

手紙は・・・・・・・・

旅に出る前の日(27日)、その前日(26日)の深夜に溢れ出てきた言葉を、暗闇の中、半覚の状態で書きなぐったノートを持って書斎でそれを読んでみた。
自分で書いたものながら、なかなか面白い名言が並んでいたので、それらをパソコンにて清書でもしようかと、読み難い文字を拾いながらキーボードをたたいた。
悔しいかな・・・、 忘れようと心に決めたはずの仏法が、自らの手で文字となって私に何かを訴えようとしている気がした。
走り書きした文字の清書作業を終えようとした時、ノートには書かれていない言葉が頭の中を占領し始めた。
ついでにメモでもしておくか…程度の軽い気持ちで再びキーボードに向かうと、それはどんどんエスカレートして行き、自分の意識とはかけ離れたところでそれとの対話が始まったような感覚だった。

「仏法なんて大嫌い! もうウンザリよ! いいかげんにして!」 と 罵った数日前のあの時と同様に、止めどもなく溢れ出る大粒の涙で眼前はふさがれた。
聞き覚えるある言葉も、聞き覚えのない言葉も、頭の中に入ってくる言葉たちを、私は大声で否定しながら、それでもその言葉にすがり付いていった。
どれほど泣いていただろう・・・・・   1時間くらい…?  それ以上…?
パソコンの画面上に、半分無意識のままに打ち込まれた文字が並んでいる。
それを読み返したら、また涙が溢れて止まらなくなった・・・・・・
懺悔・・・・・・・  そんな心は残念ながら持ち合わせてはいない。
だけど、わたしにとってはただの落し物でしかない涙だったけど、 何か、‘懺悔’という薫のする涙だった・・・・・・

少し落ち着いてから、私はその文章の後に、自分の言葉を書き添えた。

「涙は続かない…  
 喜びも、悲しみも、アッと言う間に消えてしまう。
 でも…、 たった一つだけ続くものがある…
 たった一つだけ、決して消えないものがある…
 それが、わたしに届けられた‘南無阿弥陀仏’…  
 私の称える‘南無阿弥陀仏’」

認めたくないけど、 壊れかけた私を…、腐りかけた私を治してくれたのは、この時、私の口から突いて出た‘南無阿弥陀仏’だった。 私の大嫌いな‘南無阿弥陀仏’だった。

この時に書かれたものをプリントアウトして、この言葉(手紙)と共に私は旅に出た。

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2009夏 一人旅・回想録 1 ( a Motive ) [Travel]

この旅を思い立ったのは出発の二日前。
何もかもが煩わしかった…。  生きることも…。 死ぬことも…。 
自分が自分であることすら許せない…。
私という存在のすべてを否定されながら、どうして私は存在しているのか・・・・・ 
それが許せなかった・・・・・
鈍い軋み音をたてて私が壊れていく…、 
悪臭を放ちながら私が腐敗していく…、     それが恐かった・・・・・

動機・・・・・  今回の旅というか、家出というか、その動機というものを考えてみた時、やっぱりそこには “仏法” というものがあった…。
きっかけ・・・・・  そして決定的なきっかけとなったのは、一通のメール…。 

現実逃避と言われれば、その通りだろう。 確かに、何もかも捨ててしまいたかった。
私は、私をこの苦しみに追い込んだすべてのモノに刃を向けながらも、自分をも切り刻んでいた・・・・・
そのくせ、しがみ付けそうな岸辺を必死になって探し求めていた・・・・・。

でも、 眠る… とか、 食べる… とか、 生きて行くために当たり前にしていたことすら出来なくなって…
それなのに外面を取り繕うことは何の苦もなく出来て、家族にも、友達にも、ドクターにすら平気な顔をして‘普通’を装う…

ただ…、 眠りたかった・・・・・・     処方された薬も効かなくなっていた…
眠ろうと努力をすれば吐き気に襲われ…、眠るのを諦めると、待っていましたとばかりに闇の心が胸を締め付ける…。

自身を恨み、自身を卑下しても何も解決しないと知ると、怒りの矛先は自分から仏さまの方へと移って行った。
自分にこんな感情があっただなんて、今まで気付きもしなかった…。
違う・・・・・・・
私は、ずっと、ず~っと、‘他人を恨む’という感情を抑えながら生きてきただけだったのだろう…
人を恨めば、自分を嫌悪する心と虚しさが生じる…  だから、自分自身を恨み・呪っていた方が、私にとっては楽だったのかもしれない…

爆発した怒りに任せ、出てくるだけの悪態を言葉に代えて仏さまを罵った。
大声で泣きながら御法を罵倒した。
そうしたら・・・・・・  自分の気持ちは全然晴れてこないのに、「この涙は私の涙じゃない… 仏さまが悲しんでおられる涙だ…」 ということだけはハッキリわかった・・・・・・
それが悔しくて…、辛くて…、苦しくて…、 私は声が枯れるまで泣き続け・・・、
そして、「絶対に仏法なんか忘れてやるんだ!」 と、心に固く誓った。

その翌々日の日曜日の深夜、ベッドの上でうつらうつらしながら過ごしていると、頭の中からたくさんの言葉たちがあふれ出してきた。
意もせず、ただ何気なく、真っ暗闇の寝室で、枕元に置いてあったノートに、出てきた言葉たちを走り書きしていった。

そして夜明け前…、 私は浅い眠りの中で鼻をつく悪臭を感じて息を詰まらせた。
そして、その臭いは、自分が腐敗している臭いだと気付き…、 私は、「このままでいい…  このまま、身も 心も 腐って、私なんてなくなってしまえばいい…!」 と思った…。
でも、ゆっくりと覚めて行く意識の中で、「このまま腐っていくのはイヤだ…、恐い!」と思った。

「そうだ、旅に出よう。 何もかも忘れるために、旅に出よう…」 この時、そう思いついた。

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