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2009夏 一人旅・回想録 26 ( 霊場恐山 5 ) [Travel]

先ほどの恐怖感は、いったい何だったのだろう・・・・・
開かれた見通しの良い場所まで来て、また、他の人の姿を見つけただけで、得体の知れない化け物から逃げ延びたという安堵感に変わってゆく心…。
しかし、気持ちが落ち着いてくると今度はこの場所にも飽きてきて、心の中で拠り所とした人たちさえも疎ましく思う心が沸き立つ…、身勝手極まりのない私・・・・・・

宇曽利山湖 と 極楽ヶ浜

八角円堂の前を通って、無色透明な血の池地獄を横目に、宇曽利湖(うそりこ)畔の賽の河原へと出た。
賽の河原には、積み石… と言うよりも、ただ小石が無造作に寄り集まっているだけの石の小山のようなものが数えられる程度あるだけで、何のことはないただの砂浜だ。
しかし、この山中にあってこの白砂の浜という風景は、他所ではなかなかお目にかかれるものではないだろう。 それに、宇曽利湖の水の透明度はすこぶる良い。
多分ここを訪れた人たちは、賽の河原よりも、まず宇曽利湖の美しさに心奪われ、「これはこの世のことならず、死出の山路の裾野なる、賽の河原の物語 ・・・」なんていう悲話に心を寄せる人などほとんどいないであろう…。
案の定、後方よりやってきたバスツアーの客の誰一人としてこちらに目を向ける者などいない…、
誰もが一直線に美しい極楽ヶ浜の方へと楽しそうに駆け寄って行く…。

しかし、たった一人だけ賽の河原にて宇曽利湖の水面を見つめながら佇んでいる人があった。
先ほど奥の院不動明王の前ですれ違った一人旅の男性である。
最初に彼とすれ違った奥の院では、「こんにちは!」と挨拶を交わし、次に会った八角堂の前では、「暑いですね~!」と一言だけ交わしたが、今の彼は、とても声をかけれるような雰囲気ではなかった。
その横顔は、とても大きな悲しみに耐えているかのように見えた…。

宇曽利湖の波打ち際に座り込んで湖中の湧き水をしばらく間ジーッと眺めながら、腑に落ちなかった疑問の答えを見つけたように思った。
なぜ、火山岩がゴロゴロしてガスの湧き上がる場所を地獄といい、この湖や白浜を極楽と名づくのか…、
要は、醜く、オドオドしく、苦しく、辛いものは、全て‘地獄’と呼称し、美しく、ホッと出来て、楽しく、ラクチンなものは、全て‘極楽’と呼称される。  な~んだ、単~純!  
で…、馬っ鹿みたい!!
私は立ち上がって極楽ヶ浜の方へとゆっくり歩き出した。

先ほどとは別の団体客がやって来て、また自分勝手に騒いでいる。
ここは人々が口をそろえて言っているような、「この世とあの世の境目で死者の想いが充満していて…、且つ、亡き人ととの語らいの場…」だなんて、私は微塵も感じない・・・・・
ここにあるのは美しき地球の自然と、この世の人々の嘘と穢き欲の思い・・・ それだけである・・・・・・

それにしても日差しがキツイ…  日陰になる場所も、ベンチもない…  既に腕や胸元は日焼けで赤くなり熱を帯びている。  天気予報では今日の天気は曇りだと言っていたのに…、晴れ女の頭上には燦々と夏の太陽が輝いている…。
見渡すと極楽ヶ浜の中ほどに一箇所だけ小さな屋根を見つけたのでそちらへ引き寄せられるように歩いて行くと、そこは唯一の喫煙場所であった。
吸殻入れから放たれる悪臭よりも、とにかく日陰に入りたかったし、既に2時間近くふらふらと歩き続けていたので涼める場所で座りたかった。
極楽ヶ浜より見た宇曽利山湖先客はバイクで旅する二人連れの男性のみ。 遠慮なく隣りに座らせてもらった。
でも、ただボ~ッとしているのも居心地が悪かったので再びノートにむかってアレコレと記入をしていると若い方の男性が、「俳句とか作ってるんですか?」と声をかけてきたので、「いえ、日記みたいなものをメモしてだけです」と答える。
するともう一人の男性が、「湖を見てくる…」と言い残し、一人、宇曽利湖の方へと歩いて行った。
二人きりになったけど、全然会話は弾まない…。 それでもお互い気まずくなることなく、ただボ~ッと出来たのは、多分、それだけこの風景が心安らかな感覚をもたらしてくれたからだろう。

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